要点。 シンガポール、日本、韓国、オーストラリア、EUは、高性能AIや大規模データセンターのルールの起草や見直しを進めている。それぞれが同じ6つの条件を自国の法律に書き込み、互いの安全性試験を認め合えば、そこで学習・ホスティングされる最も高性能なモデルは公開前に独立した試験を受け、重大なインシデントは共有され、国内にあるコピーは取り上げられにくく、盗まれにくくなる。法律に書かれた条件は署名よりも強く縛る。その国が物理的に受け入れているデータセンターに対して、裁判所と許認可がそれを執行するからだ。それでAIがどれだけ安全になるかは、試験で何が見つかり、それに対して何がなされるかによる。2027年6月のジュネーブAIサミットより前にいくつかの機会があるが、すべての見直しに日程が決まっているわけではない。

この記事は、こうした決定に関われる人に向けたものだ。AI拡大の物理的な鍵を誰が握るかについての前回の記事に続き、影響力を長続きするものに変える方法を考える。

声明だけでは足りない理由

9月21日、フィンランドとノルウェーは「フロンティアAIモデルの管理を求める呼びかけ」を発表した(「フロンティア」は最も高性能なモデルを指す)。企業には独立した評価者による公開前の義務的な試験を、政府には重大インシデントの報告の共有を、国連には「基準を定め、検証を可能にし、能力の閾値を超えたときに各国を招集できる」機関の検討を求めている。9月24日までに29か国と欧州委員会が署名した1。

同じ週、米国は6月に始まった「AI機会パートナーシップに関する共同声明」に19か国の署名を加えた。署名国は「イノベーションを促進する規制」と、AIサプライチェーンを米国と整合させることを約束する。署名国は54か国になった2。国連では米国大統領が、AIを管理するためのいかなる国際的枠組みも拒否すると述べた3。

ドイツ、オランダ、オーストラリア、シンガポールを含む19か国が両方に署名した。2つの文書は厳密には両立しないわけではないが、逆の方向を向いており、両方に署名するのに費用はかからなかった。署名だけでは、ほとんど何も約束していないのだ。

圧力の下では、合意もあまり持ちこたえない。1月、米国はグリーンランドを手に入れるまで欧州の同盟国に段階的に関税を課すと脅した4。欧州は反威圧措置の発動を議論したが、使わなかった5。9月、デンマークとグリーンランドは1951年の防衛協定の改定に署名し、米軍の島での権利を期限なしで拡大した6。6月には米国政府がAnthropicに対し、最も高性能なモデルへの米国籍以外の利用者のアクセスを遮断するよう命じた7。EUのサイバーセキュリティ機関がアクセスを得たのは9月10日になってからだった8。米議会の法案は、半導体製造装置の輸出規則がワシントンと異なる同盟国に罰則を科そうとしている9。本物のチョークポイントでも単独で使えば裏目に出る。2019年に日本が韓国向けの半導体材料3品目を規制したとき、韓国は自前の供給を築き、日本の供給企業はシェアを失い、政策目的も達成されなかった10。

圧力に耐えるものには4つの性質がある。

署名した声明法律に書かれた条件
自動的:圧力が来たときに新たな決定なしに働くいいえはい。法律が変わるまで
自らの手を縛る:屈することが法的に難しいいいえはい。立法か裁判所が必要
動かせない:国外から動かせないものに基づくいいえはい。自国内のデータセンターについては
共同:どの国も一国だけ狙い撃ちにされない紙の上だけ部分的に。複数国が同じ文言を採り、互いの試験を認め合えば

最後の行が難しい。同じ法律を持てば一国ずつ切り崩す費用は上がるが、なくなりはしない。

6つの条件

各条件は、法律を作る国で一定規模以上の最も高性能なモデルを学習またはホスティングする企業に適用する。どれも条約を必要としない。最初の2つは安全そのもの、次の2つはホスティングされるものの管理、最後の2つは検証と執行に関わる。

  1. 公開前の試験。 参加国のどこかの認定AI安全研究所の評価者が、その国で学習またはホスティングされるモデルを公開前に試験できる。EUはすでにアクセス権限(モデルの重みとホスティング基盤)を持つが、公開後の調査で使うものだ11。この条件はその前の段階を加える。
  2. 重大インシデントの共通定義と全員への報告。 韓国のAI基本法、シンガポールの新しいデータセンター法、オーストラリアの基準案には何らかの報告義務がある121516。ただし対象はサイバーインシデントや障害からAIインシデントまでばらばらだ。共通の定義と、全参加国への報告は新しいものになる。
  3. モデルの重みの保護。 国内で学習・保管される重みは共通のセキュリティ基準を満たす。受け入れ国のデータセンターから盗む方が開発企業から盗むより容易になることがないようにする。
  4. 不可欠な利用者の継続利用。 政府と重要インフラの利用者は、危機の最中も国内でホスティングされるモデルを使い続けられる。これが機能するのは、重みが実際に国内にあり、撤退後も有効な契約がある場合に限られる。凍結されたコピーは古くもなっていく。
  5. チップの所在の把握。 事業者は先端チップの場所を示せる。チップとその主要な投入物の輸出許可にも同じ条件を付ける。多くの種類の合意を検証するための前提条件だが、それだけでは十分ではない。
  6. 適正手続きを伴う現地での停止手段。 事業者は、受け入れ国の合法的な命令により、通知と審査を経て、処理を隔離または停止できる。安全上の理由による停止は条件4に優先する。

どれも突飛なものではない。米国はすでに、アラブ首長国連邦に設置を認める先端チップに条件を付けており、UAEの主要2社の承認資格は更新されなければ2027年4月に失効する13。条件3と5はこの形式をなぞっている。

条件は、満たす意思のあるどの国にも開かれているべきだ。中国も含めて。西側でホスティングされるモデルだけを試験し、インシデントを内輪でしか共有しないクラブは、安全の仕組みではなく陣営に見え、最も重要なインシデントを見逃すことになる。

6つすべてが通れば何が変わるか

5つの法域が起草中のルールにこれらの条件を書き込み、ある研究所の試験を全員が認めると合意したとしよう。ジュネーブ・サミットまでに次のことが起こる。

  • そこで学習・ホスティングされる最も高性能なモデルは公開前に試験される。 試験するのは、他国政府の善意にアクセスを頼らない研究所だ。5回ではなく1回の試験で済むので、従う方が避けるより安くなる。
  • 重大インシデントが数日で伝わる。 ソウルからキャンベラ、東京、シンガポール、ブリュッセルへ、報道より先に。
  • モデルを盗める場所が減る。 参加国にある重みは一つの基準で守られる。
  • 政府は頼りにしている道具を手放さずに済む。 国内でホスティングされるモデルについては。国外からのアクセスは依然として遮断されうるが、国内のコピーは一本の電話では取り上げられない。
  • 検証の土台。 チップの所在と合法的な停止命令は、「呼びかけ」が求める国際機関が必要とするものの一部だ。
  • 崩れにくい連合。 約束を捨てるには公の場で法律を変える必要があり、声明をそっと放置するのとは違う。

これで米国や中国の国内の計算資源が統治されるわけではない。しかし、これらの場所で学習、ホスティング、販売をしたい開発企業は、試験され報告される同じ基準に直面する。それも次の世代のモデルが出た後ではなく、前に。

いつ決まるのか

公表日・期限 最も早い日付 起草・審議の期間 首脳会議 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 2026 2027 10/12 シンガポール 10/7 法案成立 実施規則・行動規範の策定(施行は2027年の見込み) 日本 10月下旬からAI法見直し(法案提出の日程は未定) EU 12/3 ギガファクトリー入札締切(17時 CET) 12/9 製造物責任法の期限 EU AI法 評価者名簿・行動規範は少なくとも2年ごとに見直し(日程未定) 韓国 猶予期間終了前の告示 1/22 早ければ過料開始 オーストラリア AI基準の法案(2027年初めの予定) 全体 6/21–22 ジュネーブAIサミット
6つの条件を盛り込める機会(2026年10月〜2027年8月)。赤い点は公表された日付・期限、白抜きの円は最も早い可能性のある日付、帯は起草・審議の期間(終了日が未定のものは薄く表示)。出典は表を参照。
どこで・いつ機会合う条件
シンガポール、現在10月7日に可決されたデジタルインフラ法案の行動規範と免許規則。施行は2027年の見込み。セキュリティと強靱性の要件は10MW以上のデータセンターと主要なクラウド事業者に適用される。担当大臣は経済的な約束でさえ免許条件にできると述べた152〜6
日本、10月下旬から新たなワーキンググループがAI推進法と関連制度を見直し、法改正の必要性も検討する。大臣は法案提出や2027年の日程を確約していない171〜3
EU、2026年12月3日17時(中央欧州時間)AIギガファクトリー入札締切。選定後に利用条件と契約14フロンティアの利用者に1、4〜6
EU、12月9日製造物責任指令の国内法化の期限。特定の製品について「開発危険の抗弁」を除外できるが、欧州委員会への通知と通常6か月の待機が必要182〜3(裁判で)
EU、継続中AI法の試験権限とそれを担う専門家の名簿11。AIオフィスは行動規範を少なくとも2年ごとに見直すが、Q&Aには具体的な見直し日程は示されていない231
韓国、早くて1月22日過料の猶予期間(延長の可能性あり)が終わる前のAI基本法の告示。9月1日から必要な最先端AIチップの輸出許可1219。筆者の解釈では、試験へのアクセスの義務化には施行令か法律の改正が必要な可能性があり、法的な手段の確認が必要。2、5
オーストラリア、2027年初めAI基準の立法。「オーストラリアで大規模なAI学習を行う許可を得た」フロンティアラボは最低限のセキュリティと安全の要件を満たす16216つすべて
全体、2027年6月21〜22日ジュネーブAIサミット。今秋「論点の募集」が始まる20相互承認

これらをつなぐのは2つ。一度起草して各国の法体系に合わせる同じ文言と、韓国の研究所の評価がシンガポールで有効になり、オーストラリアに出された報告が日本に届くような互いの試験の承認だ。承認には、合意された試験手順、認定された評価者、承認を取り消す方法が必要になる。ある参加国が拒否した大規模クラスターを、他の参加国が事前の協議なしに許可しないというルールを加えれば、切り崩しは難しくなる。

図の日付は機会であって、実行計画ではない。各条件について、起草を担う担当者、変えられる決定、その後の実施を確認する責任者を明確にしたい。調達は公的支出を義務に結びつけられるが、一社への依存はその交渉力を弱めうる。英国の指針はすでに、調達担当者の早期参加、ベンダーロックインの回避、オープン標準、当初の契約終了後の支援を求めている24。条件4では、これを明確な継続利用の条項と、試験済みの事業者切り替え手順につなげたい。相互運用性は切り替えに役立つが、それだけで撤退したモデルへのアクセスを保証するものではない。

お願いしたいこと

  • これらの文書を起草している方へ。 合う条件を盛り込み、他の参加国の研究所による試験の承認を書き込んでほしい。
  • AI安全研究所で働いている方へ。 認められた評価は全員に有効になると相手方と合意し、それを公表してほしい。
  • 「呼びかけ」に署名した政府の方へ。 それを共通の文言の作業部会に変え、ジュネーブを期限にしてほしい。
  • まだ加わっていない政府の近くにいる方へ。 とりわけ日本は、いまAI法を見直しており、半導体サプライチェーンの重要な部分を握っている。何に署名するかにかかわらず、これらの条件が日本自身の安全保障に資すると伝えてほしい。
  • この分野に資金を出している方へ。 起草作業に資金を。1組のモデル条件と、各法域向けの法的な版だ。

うまくいかない可能性

米国が、6月にアクセスを制限したように、自国企業が外国の試験を受け入れることを禁じるかもしれない。そうなれば企業はこれらの国で学習しなくなるかもしれないので、連合は受け入れ先としても市場としても、離れているより価値がなければならない。日本、シンガポール、オーストラリアが加盟するCPTPPなどの貿易協定は、事業の条件として国内の計算設備の利用や設置を求めることを制限している22。条件1、2、5はそれを求めないが、3、4、6は求めうる。したがってこれらは、企業が自ら国内に建てる施設、政府利用者向けの調達、またはAIの安全については未検証の公共政策上の例外を通じて使うのがよい。停止手段が投資家の請求に耐えるには適正手続きも必要だ。受け入れ国の影響力は計算資源が希少な間が最も強い。そして共同が最も弱い部分であり、各国は個別の取引をしたくなる。これらのリスクは現実のものだが、どれも署名に頼るより小さい。

注記

この記事の調査は、AIリサーチエージェント(Anthropic製のClaude)の助けを借りて行い、3つの独立したモデルによるレビューで確認した。Anthropicはここで論じた法律のいくつかから直接影響を受け、同社のモデルは出典の一部で名前が挙がっている。冒頭の画像はAI画像生成ツールで作成した。事実に関する記述にはすべて出典へのリンクを付けた。訂正を歓迎する。

参考文献

  1. Office of the President of Finland, “A Call for Control of Frontier AI Models”, September 2026 (with endorsements to 24 September). presidentti.fi
  2. U.S. Department of State, “AI Opportunity Statement” (Joint Statement on AI Opportunity Partnership). state.gov
  3. ソウル新聞「米『AIの国際的統制を拒否』対EU『リスク管理に乗り出すべき』」2026年9月24日(韓国語). v.daum.net
  4. Reuters, “Key moments in Trump’s push to control Greenland”, 21 September 2026. reuters.com
  5. Reuters, “Trump’s Greenland tariffs prompt calls for unprecedented EU counter-measures”, 18 January 2026. reuters.com
  6. The White House, Agreement between the United States, Denmark and Greenland amending the Defense Agreement of 27 April 1951, 22 September 2026. whitehouse.gov
  7. Euractiv, “Anthropic blocks all Mythos access after US order to cut off non-citizens”, June 2026. euractiv.com
  8. Euronews, “The EU got access to Anthropic’s most powerful model three months later”, 10 September 2026. euronews.com
  9. U.S. Congress, H.R. 8170 (MATCH Act), text. congress.gov
  10. ”Japan–South Korea trade dispute”(2019年の輸出規制とその影響の概要). wikipedia.org
  11. Commission Implementing Regulation (EU) 2026/1755 on evaluations and proceedings for general-purpose AI models, July 2026. eur-lex.europa.eu
  12. Ministry of Science and ICT (Korea), “The AI Basic Act comes into force”, January 2026; IAPP, “A window into South Korea’s AI Basic Act”. msit.go.kr, iapp.org
  13. Federal Register, “Enhanced favorable treatment for the United Arab Emirates under the Export Administration Regulations”, 14 July 2026. federalregister.gov
  14. EuroHPC Joint Undertaking, “Call for tenders for the selection of Artificial Intelligence Gigafactory Consortia and the establishment of AI Gigafactories”(締切を2026年10月16日に確認). eurohpc-ju.europa.eu
  15. Ministry of Digital Development and Information (Singapore), “Closing Speech by SMS Tan Kiat How for the Second Reading of the Digital Infrastructure Bill”, 7 October 2026;国会の法案一覧、Bill 20/2026、10月7日可決. mddi.gov.sg; parliament.gov.sg
  16. Department of the Prime Minister and Cabinet (Australia), “Getting it right: Building AI infrastructure that works for Australia”, consultation paper, September 2026. pmc.gov.au
  17. デジタル庁「古川大臣記者会見(令和8年10月6日)」、AI法改正の日程に関する質疑を含む. digital.go.jp
  18. Directive (EU) 2024/2853 on liability for defective products, Article 18 (derogation from the development-risk defence). eur-lex.europa.eu
  19. Ministry of Trade, Industry and Resources (Korea), “Amendments to the Public Notice on Trade of Strategic Items take effect”, September 2026. motir.go.kr
  20. Geneva AI Summit 2027, official site. genevaaisummit.swiss
  21. Digital Watch Observatory, “Australia unveils AI framework for data centres, copyright and infrastructure”, 16 July 2026 (legislation planned for early 2027). dig.watch
  22. Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership, Chapter 14 (Electronic Commerce), Article 14.13 (Location of Computing Facilities). international.gc.ca
  23. European Commission, “Questions and answers on the code of practice for General-Purpose AI”, “How will the Code be updated?”(2026年10月16日に確認). digital-strategy.ec.europa.eu
  24. 英国政府「Artificial Intelligence Playbook」(2025年)、原則8と「Buying AI」;「Guidelines for AI procurement」(2020年)、要件の起草と契約の実施. Playbook; 調達指針